社会において弱者は無くせるか否か『魔法少女☆まどかマギカ』からの考察


劇場版「魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」劇場予告編 2013年10月26日公開

Ⅰ はじめに 

 本レポートは社会における弱者を、社会が発展する上で必要不可欠な存在として肯定することを目的とする。そのためにまず経済史を振り返ることで社会的弱者の定義を明確にし、アニメ『魔法少女まどかマギカ』を通して弱者の役割を考察する。最後に社会的弱者の存在によって、これからの社会がどのような帰結を生むか検討をする。 

 

Ⅱ 社会における弱者の定義

 社会が抱える経済問題を大まかに分類すると、生産と分配の二種類に分けられる。これらの問題はどのような形態の社会においても常に付きまとうものである。社会は物資の不足を補うために構成員のエネルギーを使用して生産を行い、十分かつ適切な量・種類の財をもたらさなければならない。そして社会は財の分配に関する問題も解決しなければならない。つまり誰が何をどれだけ得るのか、という問題を社会は常に抱えているのである。

 市場社会が登場する以前の古代社会では封建制が敷かれ、荘園制の下で人々は農業という基盤に依存していた。荘園体制の社会には領主と農奴という組織形態が存在する。この関係性において弱者は明らかに農奴である。農奴は労働の義務と納税やその他支払い義務を領主に対して負っており、荘園は農奴が生産した余剰の搾取を行うことで成り立っていた。そのため農奴は荘園制において社会を維持するための必要不可欠な存在であるといえる。

 市場経済が登場するとそれまでの農奴と領主という構造はなくなり、労働者と資本家という関係性にまで拡大することとなる。産業革命によって持続的な技術進歩と経済発展がもたらされ、現代的な資本主義社会に向かって発展していった。そのような社会では人間は常に競争の圧力にさらされることとなった。現代社会ではグローバル化が推し進められたことにより、賃金低下の圧力と企業利益の大規模化、貧困層と富裕層の格差拡大がより顕著になっている。

 以上のように、経済史を振り返れば現代の資本主義的な価値観における発展は常に低賃金労働者からの搾取によって支えられてきたといえる。

 

 経済的観点からは弱者を、

⑴社会において所得が相対的に低い層

⑵搾取をされることで社会体制を維持している層

と、定義することが出来る。

 

Ⅲ 『魔法少女まどかマギカ』で描かれている社会的弱者について 

 『魔法少女まどかマギカ』(以下『まどマギ』)の世界において魔法少女は弱者の役割を担っている。インキュベーターと呼ばれる地球外生命体であるキュゥべえは宇宙の寿命を延ばすために、魔法少女が魔女に変化する際に生じる感情エネルギーを回収することを目的として行動している。その際にキュゥべえは世界のために魔法少女が犠牲となることを平然と肯定するような価値観を持っているが、これは現代社会において企業が利潤追求のみを第一義とし、時として労働者の権利が軽んじられる傾向があることと類似している。宇宙(=企業)の存続のためには魔法少女(=労働者)の犠牲もやむなしという価値観である。

 しかし、魔法少女たちはなにも不利益だけを甘受しているわけではない。キュゥべえと契約を交わし魔法少女になることによって何か一つだけ願いが叶えられる。まさにこの契約は現代社会における労使契約であるといえる。労働者は経営者と契約を交わすことによって賃金を得る代わりに労働力を提供する。「希望と絶望のバランスは差し引きゼロ」というセリフが劇中に登場するが、このセリフはまさに社会におけるトレードオフの構造を言い表しているといえる。『まどマギ』における願いを叶えることと魔法少女になる(そしていずれ魔女になる)ことの間にあるトレードオフの関係、現代社会における賃金を得ることと労働力を搾取されることの間にあるトレードオフの関係は非常に似ている。また、何かを得るためには同等のコストを支払わなければならないというルールはゼロサム的な規律でもある。

 ここまでで魔法少女キュゥべえの間には現代社会における労働者と経営者のような関係があり、魔法少女という弱者からの搾取によって世界が維持されていると述べた。では、『まどマギ』における魔法少女以外の一般人はどのような扱いになるのだろうか。主人公まどかの同級生や家族など劇中で描かれている一般人は魔女による被害を被る場面が多く描かれているが、それと同時に無自覚ながら恩恵も受けている。一般人のなかの少女がいずれ契約を交わして魔法少女になる可能性があるため、一般人は中間層と位置付けることができる。中間層はいつでも搾取される側の社会的弱者になる可能性があるのである。

 『まどマギ』の終盤ではワルプルギスの夜という世界の崩壊が起こる。世界の崩壊といっても地球規模の話である。結果として地球は壊滅的な被害を受けるが、その際に生じた膨大な感情エネルギーを回収することによって宇宙規模では利益を得る。これを現代社会に置き換えてみると、規制が緩和された国際貿易によって経済大国のグローバル資本が搾取を行い、発展途上国に一方的な貧困化をもたらす構図に類似している。

 

Ⅳ まとめ 弱者はなくせるかどうか

 ここまで弱者の存在によって社会が成り立っていると述べてきたが、社会から弱者をなくすことはできるだろうか。結論としては、現状の社会体制を維持しようとする限り弱者の存在をなくすことはできないといえる。資本主義は搾取の構造を前提としているからである。『まどマギ』においても、まどかの願いによって宇宙の因果律は再構築されルールの改変がなされたが、搾取の構造が変化しただけで本質的な革新はなされていない。

 しかし格差の是正は現行の社会制度の枠組みの中においても可能である。社会保障と経済発展という相反するテーマの両立について考察していくことが今後の課題である。

 

参考文献・参考資料

 

新房昭之監督(2011)『魔法少女まどかマギカ』、シャフト

佐藤俊樹(2000)『不平等社会日本』、中公新書

ロバート・ハイルブローナー、ウィリアム・ミルバーグ(菅原歩 訳)(2009)『経済社会の形成』、ピアソン・エデュケーション